追悼。
quote:アップルがマックを発表した直後に,わたしはジェフ・ラスキン氏と出会った。そのとき,彼はアップルIIで作業を行ってソフトの説明をしてくれたのだが,彼の行ったすべてのことが,驚きに満ちていた。わたしは彼の家に招待され,部屋に入ると見事なピアノの音楽が聴こえてきた。ピアノを弾いていたのはラスキン自身だった。わたしはその後の2時間で,彼が本当のプログラマであり,本当の航空技師であり,本当の印刷工であり,本当の彫刻家であり,そして本当の作曲家である,とてもいい人であることがわかった。そしてわたしたちは友人となった。そのとき,ラスキンはスティーブ・ジョブズ氏とケンカして,アップルから離れてしまっていた。彼のインフォメーション・アプライアンスは素晴らしいもので,そしてそれは,アップルのフロッピーディスクのなかに収まっていた。いま,わずか61歳で彼を失うのは,簡単に受け入れられないほど不公平に感じてしまう。
ラスキン氏についての一般的な解説は,ITmedia Newsの記事などで。ここでは亡くなる半年ほど前に行われた,Guardian Unlimitedの記事のインタビューの一節を以下に引用する。「あなたの遺産ともいえるアプライアンスによる簡便さは,マックの人気のキーになっていると思いますが?」「残念ながら現在のマックOSは混乱してます。ほかの人が作った解説書は1000ページ近くにもなり,それでも完全ではありません。アップルの開発はやや行き過ぎている部分があり,結果的にマックとウインドウズとの使い心地に差はほとんどありません」「あなたはいまのマックのユーザーインターフェイスをどう評価していますか?」「わたしの考えは時代遅れで,すでに的外れでしかないでしょう」「iMac G5のデザインはどうですか?」「実用的で省スペースのデザインになっています。ですがインターフェイスは改良する必要があるでしょう。いまのままでは,使う人はなにかを行うことを気に留める必要があるようになってます。アップルは大事なことを忘れてしまっているようです」。
わたしが初めてマックに触れたのはもうかなり前だけど,それまでNECのPC-98やPC-88を使うことがほとんどだったわたしには,かえって戸惑いを感じるほど楽な操作を与えてくれて,そしてちょっとドキドキする楽しさに満ちていた。デスクトップという概念,マウスによるクリック&ドロップによる操作は,まったく知識がなくても自然に使いこなすことができ,違和感のない操作ができるように形成されていた。それはもちろん現在のマックではなく,OS9までのことだ。ラスキン氏も気にしていたように,OS Xになってマックのデスクトップは違和感を持つ空間になった。開いたフォルダの中身が同じフォルダ内に表示されたり,デスクトップというフォルダがあったり,同じ場所のフォルダがたくさんあったりもする。それは現在のOSでは一般的なことかもしれないが,誰でも自然に使える代物ではなくなってしまっている。もちろん慣れてしまえば普通に使えるものだが,ラスキン氏の頭のなかにあったアプライアンスが失われるのは,なにかくやしいと思う自分がいることに気付く。
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